奈良の食魅ー奈良新聞掲載ー

ー自然と歴史を食卓へー

 物を食べるという日常的な行為を文化の出発点とすると、その変遷流動は時代のニーズに対応し、順応しながら変化していき、国々(その地域々)の固有の食文化を作っていく生活史そのものであることが解る。

 さて奈良は味覚に加え、それに伴う歴史の味わいも重ねて味わって頂ける地です。味覚がその人の履歴であるように、奈良の風景一つひとつが自らの履歴で味わえる味を持っていて、心の満足も同時に得られる地と考えている。
これから毎月1回綴る『奈良の食魅-自然と歴史を食卓へ-』で、ご理解して頂けると幸いです。   
          👉毎月第一水曜日奈良新聞掲載中

【キッチンふきん】

 暮らしに深く溶け込むキッチンアイテムといえば布巾だろう。
素材の一つに麻がある。麻は縄文時代から生活の一部として愛用され、戦前まで日本中で作付けされていた。バツグンの吸収性と速乾性、かつ丈夫で毛羽が付着しにくい等は布巾としても最適な特徴であり、これはもう毎日手放せない。

もう一つ木綿は、8世紀の『類聚国史』に綿の種の伝来が記されているが、国産栽培は15 世紀末頃になり、麻より紡織しやすいことから急速に庶民にも普及していった。奈良県も安土桃山時代から木綿栽培が盛んに行われ、江戸時代初期『毛吹草』に「郡山の繰綿」が取り上げられ、『日本永代蔵』には大和が畿内でも有数の綿の産地であったと記されている。
実は奈良県には蚊帳(かや)生地布巾がある。蚊帳生地とは文字通り、寝る時に蚊などから身を守るための蚊帳に使われる麻や綿で織った粗目の織物のことである。江戸時代中期に、布目川流域の邑地(おおじ)付近の麻で邑地蚊帳が織られ、明治2年には経糸に綿糸を使う片麻蚊帳が考案され、明治10年頃には綿蚊帳が開発され全国に広まった。有為転変は世の習いで、昭和40年代以降、生活様式の変化に伴い家庭から蚊帳が姿を消すようになるが、自然と共生の中で連綿と伝えてきた蚊帳の技術は蚊帳生地布巾にも継承された。
蚊帳生地は薄地の平織物で、その絶妙な織り目の大きさが吸水性を発揮し、速乾性、通気性にも優れていることから布巾には適している。多くは2枚~8枚程度を重ねて作られているので、布巾の使用用途に合わせて自ら素材の質や厚み、サイズを選べば、その働きぶりはすこぶるたくましい。

もう一つ、19世紀以後、レーヨンを出発点として化学繊維が急速に発達した。なかでも植物系再生繊維レーヨンが日本国内で流通していくと、レーヨンの特性である膨潤収縮よりも、布巾の素材としての利点を取り入れている。

さて布巾と呼ばれる生活必需品は、どうやら晒し木綿が原型らしいが、布巾らしい布巾となるには、日本が豊かさへ向けて大きく変わろうとしていた高度成長期まで待たなければならないようだ。私は反物の未晒し木綿をピーと裂く快感が爽快で、好きな長さに裂けばサイズは自由自在で、布巾はもちろん、野菜の水切り、出汁を濾すなど、我が家では40年以上重要な位置を占めている。蚊帳生地布巾とは不文律に毎日重宝している。

自らの存在を主張しないが、機能的に優れ安全な布巾は、使い手の気持ちを受け止めてくれ、ストレス無く家事をこなせるという価値がある。


『なら食』研究会代表・横井啓子