奈良の食魅ー奈良新聞掲載ー

ー自然と歴史を食卓へー

 物を食べるという日常的な行為を文化の出発点とすると、その変遷流動は時代のニーズに対応し、順応しながら変化していき、国々(その地域々)の固有の食文化を作っていく生活史そのものであることが解る。

 さて奈良は味覚に加え、それに伴う歴史の味わいも重ねて味わって頂ける地です。味覚がその人の履歴であるように、奈良の風景一つひとつが自らの履歴で味わえる味を持っていて、心の満足も同時に得られる地と考えている。
これから毎月1回綴る『奈良の食魅-自然と歴史を食卓へ-』で、ご理解して頂けると幸いです。   
          👉毎月第一水曜日奈良新聞掲載中

【蕾菜:つぼみな】

 白と緑のコントラストが春らしく、花の蕾に似ている蕾菜(つぼみな)という個性的な野菜をご存じだろうか。山菜のような小さなパックに大切に入れられ、また、株の中心のブロッコリーのような「茎」は奈良漬けにして販売されている。まだまだ知る人も少ないと思うし、また店頭で見かけ気になっても、買うまでに至らない人も多数いると思う。

 蕾菜は春の訪れを感じさせてくれる新しい特産品の1つとして、奈良県明日香村では7件程の農家で4年程前から露地栽培され、商品化(商品名は明日香の春 蕾菜)しているということで取材をした。訪ねた日は風が強く寒かったが、冬の寒さが増すにつれて、甘みが増していく露地物の蕾菜は、収穫まっさかりだった。根元は白く、葉先にいくほど緑色が濃い株を見たとき、その1株から10個程しか採れないというから、希少価値の高い野菜だと思った。

 そもそも蕾菜はアブラナ科の高菜の一種で、一般的に子持ち高菜と言われ、中国を原産地とする。福岡県の種苗会社が中国から導入し、2006年に試験栽培が始まったというから、まだまだ日本では歴史の浅い野菜である。その後、色々な種苗会社から各々の名称で種を販売していく。奈良県では2010年に天理市にある種苗会社「大和農園」が育成し、『祝蕾(しゅくらい)』と命名され、全国で種子及び苗の販売を開始したのが始まりという。
一般的な高菜は葉を食用とするが、蕾菜は外側の少し固めの大きな葉っぱの付け根のところに、可愛らしい小さな蕾のような「わき芽」を収穫し食用とする。1~3月頃が出荷のピークで、大変旬の短い季節野菜であり栽培地域も限定されているという。

 さて、蕾菜はアスパラガスのような食感と、高菜に似た辛みとほろ苦さを感じる。和洋中どんな料理にも合うが、その大きさは一口でも食べられるほどの小ぶりなものから、ある程度大きいものまで様々ある。味にはほとんど違いがないので、料理のイメージに合うものを選ぶと使い易い。サラダなど生のままでも美味しいが、油との相性も良く、シンプルに炒めてもコリコリ食感は残り、魅力を存分に味わうことができる。むしろ加熱すると色が鮮やかになり、ほんのり甘い旨みも出てくる。

 コロナ禍におけるストレス社会の中、蕾菜などの季節野菜を食べるという、毎日の食事にちょっとした工夫をするだけで、栄養効果や美味しいだけでなく、気分をポジティブに変え、心の免疫力(自己治癒力)をも高めてくれる。脳のリラックス効果を得ては如何でしょうか。

『なら食』研究会代表・横井啓子